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2002年8月7日UP
 第一章・
 (1)
 代々の<白の聖騎士>が住まう<白の館>は、宮殿であるハルドウイッチムス城から見て、真北の方角に建てられている。
 その規模や華麗さではさすがに宮殿に劣るものの、白の館も庶民の目から見れば、ため息の出るような高価で美しい調度品が無数に置かれていた。しかし、当代の城の主、ゴルド・エンカーラウズバルグと、その妻であるリッツアの趣味により、一見そんなごてごてしさは無く、こざっぱりして落ち着き、くつろぎやすい場所になっている。
 <白の聖騎士>の後継者であるシシカ・ギュアナントラウスは今年十歳だが、小柄で華奢な体格をしているため八歳くらいにしか見えない。乳白色の肌色につやのあるまっすぐな黒髪をし、黒目勝ちの目は大きく、瞳の色は黒色で、よく澄んでいた。
 顔立ちは絵に描かれたように可愛らしく、一見少女のように見える─彼の悩みの種のひとつだ。彼にしてみれば、<青の聖騎士>のシェレ・レストラカスや次期<黒の聖騎士>のルファディウ・スラエィドウの精悍な顔立ちの方が男らしいものとして憧れているのだ。
 そして彼は、白の聖騎士の中では、史上初の魔法使いだった。
 <五色の聖騎士>達の中で魔法使いというのは、いつの代も一人しかいない。そして、聖騎士の位を継いだ時には、帝国中の魔法使い達を統率し、管理する役割を担うのだ。現在、その任に就いているのは、<黄の聖騎士>ティトロック・ムスラであり、シシカはあと何年かすると、彼からその役職のことを色々学ぶことになるのだった。
 五色の聖騎士には血のつながった両親がいないのが普通だ。それゆえ、厳選された乳母によって育てられる。
 シシカの乳母は、リルガ・ルーフという名前の未亡人だ。彼女はもと宮廷画家の妻である。彼女には二人の息子がおり、長男のラディオスは今年十五歳。十歳で入学して、卒業するのに普通は八年かかる魔法学校を五年で、加えて主席で卒業した秀才だ。 彼はつい一昨日、シシカ達の家庭教師の一人として、白の館に戻ってきた。シシカが今年から魔法使いとしての勉強をはじめるため、その教師となるためだ。
 そしてどの<五色の聖騎士>にも、それぞれ五人の親衛隊隊長がつけられるのが慣例であり、聖騎士たちと同様、神意によって選ばれる。
 リルガの次男で、シシカと同年のラフィオスはシシカの乳兄弟で、<白の聖騎士>の親衛隊隊長の内の一人に選ばれている。
  しかし、乳兄弟が親衛隊隊長に選ばれることは史上初で、巷ではちょっとした話題となっていた。
 彼は同年の子供の平均身長からすると長身な方だ。全体的におっとりした朗らかな性格の子で、リルガがシシカ達を分け隔てなく育てたため、二人は実の兄弟のように育った。
 栗色のやわらかい髪の毛を肩の辺りまで伸ばしており、深い緑色の瞳をしている。
 彼には魔法を扱える能力はないが、その代わりに剣術に優れた才能を示していた。
 親衛隊隊長には二人の男子と三人の女子がなることになっているが、そのもう一人の男の子はザリアル・テインという名前だった。
 ザリアルは五歳まで孤児院で育った。彼は氏素性もはっきりしていない─それを言うなら、五色の聖騎士たちも氏素性がはっきりしていないが─ベフルの路地裏の一つで赤ん坊の時捨てられていたのを通りがかりの巡査に拾われ、法的手続きを経て都内の孤児院の一つに入れられた。
 彼が親衛隊隊長の一人に選ばれたと知らされた孤児院は、右往左往の大騒動となった。
 彼はやや赤みがかった縮れ毛の黒髪で、いかにもすばしっこそうな体つきをしていたが、その期待は誰もをも裏ぎらなかった。淡い青色の瞳は常にいたずらっぽく、生き生きと輝いている。彼には精霊の力を借りて奇跡を起こすことのできる精霊使いとしての能力が生まれつきそなわっており、<白の館>ではその技術を、専門の先生に就いて、本格的に学ぶことになった。
 三人の女の子の内の一人は、当代皇帝シャルフィールの皇后の生んだ第三皇女だった。
 皇族が聖騎士の親衛隊隊長に選ばれるのは珍しいことではない。
 皇女の名前はリザディと言い、小柄で快活な少女だった。綺麗に巻かれた金髪は肩の辺りまで伸ばされ、濃い空色の瞳をしていた。気まぐれな性格も含めて、なんとなく子猫を連想させる。肌の色は透き通るように白かった。彼女も魔法使いで、シシカは魔法の授業の時、彼女と一緒に受けることになっている。
 ティリミー・ダーソはベフル近郊の農村にある、かなり裕福な農家の長女だった。彼女も小柄な方だったが、リザディよりもほんの少し背が高かった。やわらかい栗色の髪の毛はリザディと同じくらいで、繊細な目鼻立ちをしたおとなしい少女だ。瞳は淡い緑色。彼女には神の力を借りて奇跡を起こすことが出来る神聖魔法を扱える能力がある。
 ナーギ・ルドは帝国の数ある部族の一つ、ルド族の族長の末娘だ。彼女の母親が精霊の力を借りて奇跡を起こす優れた精霊魔法の使い手で、彼女にもその能力がしっかり受け継がれていた。精霊使いとしての修行は、同じく精霊使いであるザリアルと共に行う事になった。それについて、この二人はお互いに文句を言い合っている。この二人がお互いに口を利くと、必ずといっていいほど口喧嘩にjなるのだった。
 彼女は褐色の肌をし、まっすぐな黒髪は腰の辺りまで伸ばされている。瞳は穏やかな黒色で、ラフィオスの次に長身で、長い手足をしていた。
 子供達の部屋は館の二階にあった。
 そして、三階が教室であり、家庭教師たちの私室もその階に設けられている。
 
 「あなたが同僚になるのは嬉しいわ。これからどうぞよろしくお願いいたします」
 そうおどけた調子で言い、ラディオスに宮殿風に優雅に会釈したのは、一見十二歳くらいの少女だった。
 彼女の名前はモモ・ナーゼという。若木の枝のように伸びやかで、ほっそりした体つきだ。肌は、一生日に焼けないのではないかと思えるほど白く、卵形の小さめの顔、快活そうに輝く青い瞳が印象的だった。
 髪の毛はゆるやかに波打ち、色は純白─生まれつき白髪というのは、ヌートゥでは珍しいことではない。むしろ、この世界では普通の髪色に入る。髪の色は、金髪はもちろん、緑色、蜜柑色までさまざまある。瞳の色も同様だ。
 ただ、その少女は少女ではない。今年二十六歳の、一人前の女性だった。そして子供達が基礎的な学業をはじめた五歳の頃から、子供達を教えている家庭教師の一人だ。そして今年からは、彼女の専門的な能力である精霊魔法を、ザリアルとナーギの二人に教えることになった。
 彼女は不老長寿とも、不老不死とも言われる妖精族の一つ、エルフ族と、死すべき定めの種族の一つ、しかしヌートゥ世界では圧倒的にその数が多い人間族とのハーフである。
 エルフ族と人間族の間にできた者たちを、総称してハーフエルフという。ハーフエルフたちは人間より長命で成長の速度が遅いため、彼女のように実年齢は成人してても、外見は子供、ということが普通だ。
 そして、耳。
 彼女の耳は人間のそれと同じ大きさだが、先端が刀の刃のようにつんと尖っていた。それはこの世界では、妖精族の血が流れていることの証だった。
 

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