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この夏の間中─というか、夏休みはほとんど毎年、<白の聖騎士>の直轄領、帝国最北端のダンルシュア州の州都・ヂッチルム市の<白の館>に避暑にゆくことになっている。彼らはつい三日前、そこから帰ってきたところだった。 ヂッチルム市は内陸に位置するベフルの都とは異なり、港町だ。守役などの監視付きだが海で遊ぶのは楽しかったし、市の近郊にはダンシュルア州の半分の面積を覆う大森林地帯─鈴音の森があり、そこには帝国にいくつか存在するエルフの集落のうちでも最大のものがあった。ゴルドと、現皇帝シュラフィームの弟のジャティウは幼い頃から仲が良く、そして現在はこの森のエルフの族長の娘であるエメリーナと結婚し、この森の大集落にエルフの一人として穏やかに暮らしている。 それゆえ、ヂッチルム市にいる間はシシカたちはゴルドに連れられ彼らの大集落へ訪問したり、または彼らの方から館を訪ねてきたりと、ベフル市ではほとんど味わえないような刺激で夏を楽しめた。彼らにもエルフ族の友人達が何人か存在する。 しかし、ベフルに帰ってくれば帰ってきたで、また嬉しくなるのだった。ただし、今回からは秋の新学期が始まるのを、いつもよりより一層覚悟しなければならない。その覚悟は、彼らのもとに届いていた分厚い、少なくとも初等教育を受けていた時の教科書よりも分厚い教科書の山をみた時には、その思いが一層強まった。 「加えて、今学期からは王立第一魔法学校との生徒たちとの交流もはじまるぜ」 ザリアルが自分の教科書を所在なげにめくりながら、うんざりした表情で言った。 「…学校内で出会った時の、ミアナの嬉しそうな顔が、今から見えるような気がする…」 シシカは自分の教科書に顔をうずめながらうめいた。 「…それは言える…」 ザリアルは言って、ほかの二人と顔を見合わせてため息をついた。 王立第一魔法学校といえば、ハルドウイッチムス城の敷地内に建てられた、帝国の中で最古の魔法学校だ。 そこには全国、いや、その魔法学校の実力は海外にも知れ渡っており、そこで魔法の学習をしたいと、海外からも留学生が毎年何人も、試験を受けて入学する。 その学校は、ラディオスやモモの出身校だ。 いや、シシカたちにとっては、魔法学校の生徒たちと交流を持つのは、そんなに嫌なことではない。 しかし、唯一彼らをげんなりさせているのは、その学校にかなりいい成績で入学したゴルドとリッツアの一人娘、ミアナがいるから、だった。 ミアナは今年十一歳で、母親ゆずりの明るい金髪と、母親方の先祖の一人、<稀代の大魔女>ことティリアンカ・ランファルツ譲りの深い緑色の瞳をした少女だった。 細面の顔立ちをした、なかなか愛くるしい外見の少女で、幼い頃から魔法の力を発揮し、同じく魔法学校出身者であるティリアンカを喜ばせていた。というのも、ランファルツ家ではティリアンカを最後に、ミアナが生まれるまで、魔法使いが生まれなかったからだ。 ティリアンカは変身術などではなく、実際に不老の術を身につけ、三百五十九歳で死ぬまで、若い日の美しい姿のままだった。そして、死後もまたゴーストとしてこの世に蘇り、今はランファルツ家最後の一人であるリッツアの嫁ぎ先である<白の館>に一室を与えられ、現在もそこで生活しているのだった。─これが、<白の館>の七不思議の一つだ。 シシカたちがミアナを苦手とするのは、彼女が若干、いや、かなり口うるさい部類に入る人種だから、だった。特にシシカが被害にあっている。小さい頃からそうだったが、魔法学校に入学してからはそれが著しく顕著になった。今年の夏などはシシカを部屋に閉じ込めて長時間、むりやり新学期の予習をさせた。 魔法学校で彼女に出会って、この館に居る時と同様に振舞われたらどうしようと考えると、シシカは自然に頭痛がしてくるのだった。─自分は将来、魔法学校出身者や、魔法塾などで修行した魔法使いたちを束ねることになるのだ、ということは、彼も一応は、それなりに理解している。その自分が彼らの前で小さな子供みたいに世話をあれこれやかれたら恥ずかしいと、彼はそう考えていたのだった。
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