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2005年6月24日UP 「…全く、酷い事になったものね!そう思わない?」 赤の聖騎士見習いであり、精霊使いでもあるサンサ・ホンムは、ぷりぷりとしながら、彼女の後方に控えて作戦決行の時を待っている、親衛隊隊長見習い達に言った。 彼女の親衛隊隊長たちも、他の聖騎士や聖騎士見習い達と同様、彼女を入れて男女同数の五人だ。彼等は、自分の主人であり幼馴染でもあり兄弟姉妹のようでもあるサンサの言葉に、深刻な表情をしたり、苦笑を浮かべたり、それぞれ好きなように反応している。 サンサ・ホンムは、この帝国には五部族しかない黄色人種だ。だから、彼女は、自分の本当の両親はこの五部族の中にいる可能性が最も高いと思っている。しかし、本当の両親を探そうにも両親や親戚などからは彼女の記憶が消されているので方法は何もないし、黄色人種は帝国に限らなければ、このヌートゥ世界の八分の一は黄色人種なのだ。だから、もしかしたら彼女の両親は、そちらの方にいるかも知れない。そうなると、探すのはさらに難しくなる。 彼女は、今年14歳になる。顔立ちは目を見張るほど可愛らしい、というのではないが、表情が活き活きとしていて、愛嬌があった。身長は、この年頃の少女達の中では、割合にすらりとしていて、背の高い方だ。手足もバランス良く長く、ほっそりしていて、毎日武術で鍛えているせいか、しなやかな体つきだった。 黄色人種にしては肌の色が白く、白色人種の中に混じっていても、ほとんど黄色人種とわからない。人種の特徴であるまっすぐな黒髪は時として白色人種の貴族の少女達の憧れとなったが、彼女は今年はそれをばっさりと、─これまた貴族の少女達の憧れの的だったが─現代流行の短めの髪形にしていた。 彼等の首には、鈴音の森から瞬間移動してきたエルフから預かった、任務が完了したら、キーワードを唱えれば皇帝たちと共に鈴音の森に瞬間移動出来る、魔法の首飾りがかけられていた。この首飾りは、ルファディウやシシカ、ロドルたちにもそれぞれ預けられている、と彼は告げた。 そのエルフの若者は、自分の役目が終わると、さっと森に帰っていった。 サンサは、どうせなら手伝ってくれればいいのに、とも少しは思ったが、エルフというのはもともとそういう種族だった、と思い直した。 彼等は基本的に、余程のことでなければ、人間世界の政治や戦には関与しない。そういう基準から見れば、今の鈴音の森の族長や、その娘で人間と結婚し、あまつさえその人間を森に連れて来てエルフのようにしてしまった族長の娘などは、彼等から見たら変わり者の部類に入るのだ。 赤の聖騎士見習いなのだから、なにも黄の館から宮殿へ潜入しなくても良いのではないか、とも思うが、何しろ、メアルナ皇女が反旗を翻したその三日前から、彼女たちは黄の館に逗留していたのだ。 皇女がこんな戦を起こさなければ、彼女達は今日は午前中勉強した後、ティトロックらと共に今話題中の歌劇を見に行けたのだ。 それが、皇女がお馬鹿な真似をしてくれたお陰で、鎧に身を固め、黄の館の地下にある埃くさい物置の一つに、親衛隊隊長見習いたちと待機しているはめになったのだ。 随分愚痴っぽくなってしまったような気がするが、と、彼女は時計を見ながら気を引き締めた。 この物置部屋が、黄の館では宮殿に人知れず侵入するのに、最適な場所なのだった。 彼女だって、誇り高い聖騎士、まあ、今は見習いだが、それでも誇りは高いと自分では思っている。 任務はきちんとこなさなきゃ、と、彼女もシシカやルファディウたちと同じように緊張していた。 (2) さて。時間を、シシカやモモたちが地下神殿に侵入するよりも少し前まで戻って、その頃のリザディの様子を述べさせていただくことにする。 「リザディ。メアルナよ。入るけど、いい?」 寝台に入り、疲れからうつらうつらしかけていたリザディは、部屋の外から聞こえてきたその声に、思わずはっとなって飛び起きた。 そのまま寝台の上で、自然に、表情と体が硬くなる。 返事なんか、してやるもんですか。と、扉の方を睨みつけながら彼女は思った。どうせ、しなくても勝手に開けるんだから。 寝台の中で彼女が硬くなっていると、思ったとおり、部屋、いや、正しくは牢屋の扉が開き、メアルナがわざとらしいくらい優雅に入ってきた。 メアルナは今年18歳になる。彼女は立ち居振る舞いも皇后に良く似ているが、まっすぐで腰の辺りまで伸ばされた白金色の髪も、彼女の母親に良く似ていた。彼女は今はそれをこざっぱりと、格好の良い額を出した形で結い上げていた。瞳の色は時として冷たくも高慢にも見える涼しげな水色であり、始末の悪いことに、とにかく、華やかさを持つ美人だった。背もすらりと高く、彼女に良く似合う濃い目の紫色の、こざっぱりしたドレスを身に付け、大きく開いた胸元には、代々の第一皇女が身につける大きなサファイアの首飾りを身に着けていた。 彼女は牢の扉のある側から見て真正面の壁側につけられている寝台の中にいたリザディに向かって、意地の悪い表情でにやりと笑うと、部屋の外に向かい、 「お入りなさい」 と手馴れた様子で命令した。 その声に応じて、畏まった表情で牢に入ってくるヴィベを見た時も、彼の裏切りを知らなかったリザディは驚いたが、さらにその後ろから部屋に入ってくる二人の人物の姿が目に入った時、思い切り仰天してしまった。 「─シシカあ!???それにティリミー!???」 彼女が驚くのも無理はなかった。 ヴィベの後から入ってきた男の子は、どこからどう見てもシシカだったし、もう一人はティリミーだったからだ。 シシカとティリミーは彼女の大声にびくりとなると、二人ほぼ同時に、 「ごめん!!」 と頭を勢いよく下げた。 「ちょっとちょっと!!これって一体どういうことよ!??」 仰天して我を忘れたリザディは、思わず寝台から飛び降りると、そのままの勢いでシシカたちの前にずんずんと歩み寄り、シシカの襟首を両手でつかんで、彼をぶんぶんと左右に振り回した。 「リ、リゼ、あの…気持ちは良くわかるんだけど、苦しいから放してくれる?」 「これが放さないでいられるもの!??」 リザディはそう言いながら、さらに強く彼の襟首をつかんでいた。 「リゼ、おやめなさい。私の直属の部下に対して、失礼よ。加えて、皇族の振る舞いらしくないわ」 そのリザディに、メアルナがどこか楽しそうに、小馬鹿にしたように言った。 「シシカやティリミーがお姉さまの直属の部下、ですって?」 なんとか自分を抑えてシシカから手を放しながら、リザディはむっとして、メアルナに向き直った。 「そう、部下よ。ねえ、シシカ。何故こういう状態になったのか、貴方の口からリゼにお話なさいな」 メアルナは楽しそうにそう言うと、軽やかに歩いて、牢の中にあった長いすに腰掛けた。
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