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 第三章・
 (1)
 「これが鏡の中の世界なの?」
ティリミーがモモの後ろに何となく隠れるようにして、不安そうに辺りを見回しながら言った。
 不安だからと言って、隠れても何もならないのだが、何となく気分的にそうしたいらしい。
 もっとも、不安なのは彼女だけではない。その感情の差に大小はあるが、この道を使うのが二回目のシシカとリュール以外は、全員が不安そうではあった。
 そう言っている間にも、彼女、というか、鏡の中に入った全員は、一定の速さで進んでいる。
 「そうだよ。ちょっと水の中にいるみたいなのが何となく気持ち悪いけど、息も苦しくないし、慣れれば平気だよ」
シシカがそう言って、ひょいとジャンプすると、空中で一回転して着地してみせた。
 「たとえば、この道は、こんなことしてても自動的に進むし」
そう言うリュールは、仰向けに寝そべっている。
 「うーん。でも、目をつぶると、どうしても水中にいる、って思えちゃうのが難点ね。私、さっきからどうしても息を止めたくなっちゃって」
モモがうーんと困ったようにいいながら、頭をふった。
「あはは、確かに。でも、水の中だったら、こういう風には会話出来ないよ」
シシカが空中に胡坐をかきながら、楽しそうに言った。普段は自分達にものを教える立場であるモモに、逆に教えられることが、楽しくて仕方ないのだ。
 「─あ、出口だよ!パールー島への入り口だ!」
皆でこの道のことやこれからのことなどを何となく話しながら道を進んでいたが、何となく先頭に浮かんでいたリュールが、トンネルの出口が前方にぱっと開いたのに気づいて、そう叫んだ。
 彼は思わず走り出していて─この中では、自分が普段走れる速さで走れたらしい─、シシカも好奇心にかられて、思わず駆け出していた。
 リュールはまず、トンネルの出口の前で一度立ち止まり、外の世界を注意深く確認した。
 そして、久しぶりに見る景色に、思わず喜んだ。
 そこはパールー島の宮殿の、大広間だった。
 パールー島の人竜族は、金色の鱗─金髪の者が強大な力を持って生まれてくるので、自然に、その者が一族を支配するようになった。
 金色の鱗の者はあまり生まれない。
 現在では六人が<金髪の者>で、その中の一人がリュールの姉だった。
 宮殿には代々、<金髪の者>が住み、その中の最年長者が<族長>として一族を統治していた。
 そして今、その大広間の、トンネルの出口の前は玉座であり、リュールはそこに<族長>がいつものように座り、その周りに他の<金髪の者>が立っているのを見とめた。
 リュールは後ろをくるりとふり向いて、シシカたちに教えた。
「この出口からパールー島の宮殿の、大広間に出るよ。一族を統治している、<金髪の者>が玉座にすわっているからね」
 彼はそう言うと、穴からぽんと飛び降りた。
 リュールに続いて、シシカたちも次々に穴から出てきた。
 大広間は、どちらかといえば神殿のような雰囲気だった。
 床や天井や柱が全て白大理石で出来ており、彫刻の類は一切無かった。そして、昼間でもどこか薄暗く、魔法使いの創り出す灯りや精霊のウィル・オ・ウィプスたちが放つ灯りがあちこちに灯されていた。
 玉座に座しているのは、一体何年生きてきたのかわからないような老人だった。
 <金髪の者>たちは三人が男性で、三人が女性だった。
 族長は男性で、かつては金髪だった腰までの長髪が今では白髪に変わっていたが、その白髪も良く手入れされているらしく、美しかった。
 体は小柄だったが、族長らしい威厳に満ち溢れており、深くくぼんだ鋭い青い瞳をしていた。そして、耳の鱗は、まだ金色だった。
 <金髪の者>は金髪ということと金色の鱗という点が共通点だが、瞳の色は各人違うようだった。
 (あ、あれがリュールのお姉さんかな?)
彼らをざっと観察したシシカは、族長から見て右側の一番端の方に佇んでいた、十三歳くらいの小柄な少女を見てそう見当をつけた。─後でわかったことだが、彼女はやはり、アナレシアという名前のリュールの姉だった。
 彼女はふわふわの金髪を腰の辺りまで伸ばし、小さめの整った、華奢な顔立ちをしていた。
 リュールには似ていなかった。後でリュールの家に言った時に彼の祖父に会ったのだが、リュールは祖父似だったのだ。
 目は二重の切れ長で、どこか神秘的な緑色の瞳をしている(人竜族の瞳の色は、鱗の色とは違うようだ。だが、リュールやその父親のように、鱗と同じ色の瞳の色の者達も多数いる)そして、健康的で朗らかそうな表情をし、桜色のふっくりとした頬をしていた。
 そして<金髪の者>は、全員、ゆったりとした白色の服を身に着けていた。
 シシカたちは全員鏡の道から出終わると、族長に向かって、帝国流に、方膝をついて頭を垂れた。
 「ああ、どうぞお楽にして下さい、シシカ殿、それに他の皆さん。まず初めに、自己紹介といきましょうか。
 まず私は、<族長>ディオサ・フア・ジュラウパと申す」
 そして族長は、他の<金髪の者>たちを、次々に紹介してくれた。
2006年6月10日UP
 族長の右側に立っているのは全員女性で、左側に立っているのは全員男性だった。
 左側の一番端に佇んでいたのは、まだ五歳くらいの、金色の巻き毛を肩まで垂らした青い瞳の可愛らしい坊やで、こんな小さな子まで<金髪の者>たちにはいるのかと、少なからずシシカたちは驚いた。彼らは無意識に、一族を束ねる者、ということで、族長のような老齢の者を想像していたのだ。
 ちなみに、彼の名前はパンディン・イウ・ユウラといった。
 アナレシアはリュールの姉、パンディンは最年少という特徴があったからここで名前を記したが、他の<金髪の者>たちは、この物語には特に関係は無いから、後でまた登場した時にでも、それも機会があれば紹介しようと思う。
 <金髪の者>たちが紹介された後は、族長がぱんぱんと両手をはたいた。
 その音は大広間中に反響し、その音が合図となっていたようで、大広間には幾種類ものご馳走を盛った長卓が三個現れ、座り心地のよさそうな椅子も、人数分ひとりでに現れた。
 シシカたちは大喜びでそれを食べ、その後は給仕をしてくれた人竜族の女官たちに伴われて、それぞれの部屋へ案内された。
 
 「…俺、今ものすごーく不公平なものを感じてるんだけどさ」
剣の素振りをしながら、ロユマがやや不機嫌そうな声でルファディウにそう言ったのは、パールー島に着いて二日目の、昼過ぎのことだった。
 彼らが今いるのは、宮殿の室内鍛錬場だ。
 宮殿内の図書館やらそう言った類の施設を、規則を守っての上だが自由に使用していいと族長から言われたため、ルファディウやロユマたちのような剣を扱える者たちは、かなり頻繁に鍛錬場に来ては、剣の稽古をしていた。
 後一週間で離れ離れになり、大陸各地を放浪する一介の冒険者となる。そして、帝国の宮殿にある<異界の部屋>のような、言ってみれば幻の冒険や戦いではなく、実際にそれらを体験することになるのだ。
        

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