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 ラフイォスには悪いが、相手は大人だ。剣の腕だって、かなりあるだろう。ロドルやクオンは大人同士で剣を交わしているから、あまり心配はしてないのだが。
「問題は、この人たちが私たちを殺すか、生け捕りにするか、どんな命令を受けてきたか、ってことなんだけど…。それによって、相手も戦い方が違ってくるでしょうしね。まあ、見てましょ」
モモのその言葉に、彼等は頷いた。
 彼等の近くで、縛られている他の暗殺者たちがどこか憮然としているのが分ったが、彼等はそれを意識的に無視していた。
 剣士たちの戦いで、一番早くに決着が着いたのはクオンだった。
 彼は相手の剣を、思い切り遠くに弾き飛ばしていた。
 モモが嬉しそうな顔になり、小さく拍手を送った。
 ラディオスと目を交わしてからシシカが立ち上がり、呪縛の魔法をかけた。
 クオンはロドルと同様、今年二十七歳になる。
彼の容姿はロドルやシシカに比べると地味だが、それは彼等の容姿が標準より、いわゆる見目麗しい方だからだ。
 モモは彼に出会った当初、彼の容姿を十人並みと思っていたが、今では、普段の生活では、並より上の整った容姿の持ち主である、という事に気づいていた。
 小柄で、ロドルより頭二つ分ほど背が低い。勿論モモよりは大分長身だが。ただ体つきは、いかにもすばしっこそうだ。目つきも同様だった。
 二年半前はかなり短めだった黒髪も、今ではそれなりの長さになっている。伸びると、大分くせっ毛であることが分る。目は一重瞼の切れ長で、黒い瞳だった。
 彼は焦げ茶色の、腰の辺りまである着物を身につけ、それを黒い細帯で腰の右側で縛っている。焦げ茶色の着物は胸の部分が大分開いていたが、その中にはもう一枚、薄手の黒い着物を身に着けていた。
 ズボンは細身の黒色だ。
   ロドルとルファディウが、ほぼ同時だったが、ややロドルの方が早かった。
 ロドルは敵の隙をついて背後に素早く廻りこみ、首の付根に手刀をくらわせて、気絶させたのだ。
 ルファディウはクオンと同様に、敵の剣を弾き飛ばしていた。
 この二年半の間に、彼は大分背が伸びていた。ロドルよりやや低めといったところか。年は十六歳。
 彼はこの仲間の中では唯一の黄色人種で、ほどよく筋肉がついてすらりと長い手足に、浅黒く引き締まった肌をしている。
 短めの黒髪に、繊細に整った精悍な顔立ち。涼しげな切れ長の二重での目に、昔から狼のような鋭い濃い茶色の瞳をしていたが、冒険者として実戦を積む機械が増えてから、その瞳はますます狼を連想させるような、強い光を増してきていた。
 そして、年齢の割には、かなり落ち着いた性格だった。
 ルファディウはその男っぽい顔立ちで、シシカの以前からの憧れだった。
 彼が身に着けているのは黒一色の着物と帯と細身のズボン。それに、着物よりやや淡い黒色の肩掛けを、左肩から右斜め下に向けてかけている。肩掛けは細やかな細工が施された純金の留め金で胸の辺りで止められ、また、帯に挟んでいた。肩掛けの両端には、大まかな模様の金糸の刺繍が施されている。
 残るはラフィオスのみとなった。
 しかし、ラフィオスの対戦相手は、残るは自分一人になったと見るや、ラフィオスの剣を大きく弾いて(剣は飛ばされずに持っていた)彼のバランスを大きく崩れさせると、身軽な動きで三歩下がり、騎士の試合終了の正式な礼をして、シシカたちを内心ほっとさせた。
 「えーっ。何だよ、それ」
さすがにラフィオスは、不満そうに口をとがらせる。
 その彼に、対戦相手は、剣を遠くに放り投げ、どっかと地面に胡坐をかいて座り込み、大きく両手を広げて見せ、肩をすくめながら言った。
 ちなみに、刺客たちはクロアータ帝国の共通語を話している。
 このことからも、刺客たちがシシカたちの身元は既知のことだ、とわかる。
「周りを見てみろ。皆やられたのだ。私だけ一人、お前と戦ったところで、何となる?」
「それは、そうなんだけど…」
まだ不服そうなラフィオスに、彼は苦笑したようだった。ようだった、というのは、刺客たちは皆、黒覆面をしていたのだ。
「お前の気持ちもわかるがな。これは結果的にはお前の勝ちだ。それで善しとせんか。それに、お前の剣の腕は、私の、お前と同じ年頃の息子に比べると、数段上だったぞ」
 「ねえ、ラフィ。まあ、これで善しとしようよ。おじさんもそう言ってくれてることだしさ」
シシカも笑いながらラフィオスに近づき、彼の対戦相手を、魔法で他の者と同様しばりあげてから、そう言った。言いながら、彼の肩をぽんぽんと叩いて慰めた。
 「うーん…。まあ、そう思うことにする」
仲間にもそう言われ、ラフィオスも渋々納得したようだった。それに、対戦相手の息子よりも上手だと褒められ、悪い気はしなかった。
 「さあーて。もう一人いることはわかってるんだ。出てこいよ。それとも、魔法で無理やり出してやろうか?」
剣を鞘に納めながら、ロドルが良く通る声で、森の方に向かって呼びかけた。
 「…もう一人いたの?」
シシカを初めとする子供組は、きょとんとした顔になった。シシカは思わず、近くにいたルファディウに尋ねる。
 ルファディウは、思わず噴き出したいのを何とかこらえた。
「いたさ。こいつらの大将か何かだろ」
 「やれやれ。予想はしていたが、全く見事なものだな」
そうつぶやきながらロドルが見ていた方角の森の中から、深みを帯びた声の、一人の女性が姿を現した。
 予想に反して女性だったので、全員がそれぞれ驚く。
「私が女性だ、ということに驚いたのか」
彼女はどこか、楽しそうに笑った。
 全体的に、どこか男前、というか何と言うか、とにかく、凛とした風情を持つ女性だ。
 短めのまっすぐな、夜空のような黒髪。目は大きく、深く澄んだ黒目がちの瞳はかなり目立つ。全体的に気の強そうな目つきだ。クリーム色の肌色に、すらりとした強靭そうな体つきをしており、魔法使いの証である黒のローブを身に着けている。背は小柄な方だ。首からさげているのは、タイクルド王国の魔法使いの何かの身分を表す物だろうか。恐らく純金製の、どこか繊細な型のペンダントを身に着けていた。
 「私はメナ・リウタラ。この部隊を統率していた者だ。なおちなみに、この者達が身に着けていた護符を作成した、魔法使いでもある。ま、結果はご覧のとおりのありさまだが」
彼女は最後の言葉を、苦笑つきで話した。
 「ええっと…」
ぽかんとしていたシシカが立ち直ったらしく、困ったような感じで彼女に話しかけた。
「リウタラさんは…僕たちのことは既に知って…るんだよね?」
 彼女は、シシカの方を見た。意外とやさしく彼に笑いかけてから言った。
「それは、国王陛下からお聞きした。さて、ここで本題に入らせていただくが、構わないな?」
彼女は、今度はロドルの方を見て言った。口調と顔つきが、きつめのものに戻っている。
 ロドルも最初の驚きから立ち直り、肩をすくめながら言った。
「まあ、構わない。自ら名乗ってくれたしな。答えられる範囲でなら答える」
他の者たちも同感の印に、頷いてみせる。
 メナは、タイクルド王国の現国王から、ロドルたちを、仕事の依頼があるため、連れてくるように、と命令されていた。
 国王を初めとする権力者やそれなりの金持ちがある特定の冒険者を雇いたい場合、メナたちのような襲撃するものたちを組織してそのパーティを襲わせ、その実力を試してみる、という方法は、この世界ではかなり行われている。
  
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