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酒に酔った騎士たちが突然会場内で剣を抜いて活劇になるという騒ぎも毎年のことで、シシカ達は慣れっこになっていたが、新入生たちはさすがに驚いたようだ。 ただ、そういう時は瞬間移動の呪文を使いこなせるラディオスや、ゴルドの親衛隊隊長のうちの一人、ユオリナ・カオンバも魔法使いで、彼らが瞬時にその場所に現れて、決闘をはじめた騎士たちの刀の刃を魔法で瞬時に落とすため、毎年怪我人は出ても死者は出ることはなかった。剣の達人同士の決闘が始まると、騎士見習の子供達の大半は彼らの決闘を良く見ようと、その周りに集まって熱心に見物した。決闘が長引いた場合は賭けをする者も多く出た。シシカもラフィオスらと子供なりのお金で賭けて、いくらか儲けが出た。 そしてパーティが終了し、今日になった、というわけだ。 パーティが終了した後の片づけをするために、リッツアやディミが女中達にてきぱきと指示を出し、自分も行動していた。 始業式パーティの翌日は、毎年2時間遅れの起床時間となっている。 就寝前に時間表を─昨年までよりずっとびっしりと学習科目が書き込まれた時間表を確認すると、今日の最初の授業は、騎士見習の子供達と合同で行う、剣技を含んだ武術の授業だ。シシカはラフィオスが得意としている両手持ちの大剣の扱いは苦手で、小刀の扱いが得意だった。ザリアルは他の運動神経は人並み以上に発達していたが、剣技はどういうわけか苦手だった。 「剣で闘えた方が格好いいのに」 と本人はぶつぶつ言っていたが、体術は得意で、今ではそういう騎士見習の子供達と一緒に、体術の習得に励んでいる。習っている内に、その面白さに気づいたようだ。 二学期からは、二週に一度くらいの割合で、宮殿に設けられた<異界の部屋>という部屋で行われる授業がある。 そこは、普段は正方形に削られた仄かに青く輝く石を天井、床、四方の壁いっぱいに敷き詰めただけのかなり広い部屋だ。石の表面には、呪文を記す時に使われる魔法文字がびっしりと刻み込まれている。 シシカは以前、その部屋にゴルドに連れられて行ってみたことがある。部屋の中央に立って見ると部屋が揺れているように感じ、船酔いしたように気分が悪くなり、あわててそこを離れた。ゴルドに聞いてみると、部屋全体にかけられた魔法が部屋のつくりのせいで中央に集まっているせいでそう感じたのだそうだ。それは魔法使いでなければ、感じられないという。 その部屋は魔法使いがある呪文を唱えると、その魔法使いが設定したとおりの異世界が瞬時に現れる、という部屋だった。 代々の聖騎士の後継者たちとその親衛隊隊長たちはその魔法がかけられた状態のその部屋に入り、魔法使いが設定したとおりの冒険を行う、という授業を受けてきた。盗賊や魔物と闘ったり、複雑に入り組んだ迷宮に入って謎解きをしたりする。 授業の後でそのレポートを書くのは面倒そうだったが、自分たちが今まで習ってきたことを駆使して冒険するのは楽しそうなことだと、その授業のことを聞いて以来、シシカはそう思っていた。 特に今学期からは、一日の大半の時間を授業や宿題で浪費することになるだろうから、例え<異界の部屋>の授業が授業の一環だとしても、他の授業では得られないような刺激が得られそうだった。それに、これは五歳の頃から一緒に生活していて、気心の良く知れた六人全員で受けられる、数少ない授業の一つだった。 2002年11月24日UP 朝食用の食堂に入ると、長方形のテーブルの上座の一つには既にリッツアが着いていた。彼女はレースをふんだんに用いたこざっぱりした衣装を身に付けている。彼女を知らない人が見たら、せいぜい十代後半の少女くらいにしか見えなかったろう。─彼女にはどこか、少女らしい雰囲気を持っていた。 ゴルドの席は空いていた。これは平日の普通の光景だ。彼は仕事先である宮殿に出仕するのが早いので、平日はほとんど常に、皆より早く食べる。休日だと、皆と一緒に食べられるが。 しかし、シシカはゴルドとリッツアの二人を見て、一体どこをどうしたら、ミアナのような娘が─リザディたち女の子達には頼りにされているが─出来るのだろうと、常々思っている。あれは、絶対にエンカーラウズバルグ家の突然変異なのだ。ミアナには他に兄弟姉妹がいないから、その点からの比較ができないのが、この説の信憑性をやや下げてはいるが。しかし、シシカの気の置けない友人の一人であるルファディウや、その義父のヴィルグにそのことを話すと、彼らは吹き出したが、多分に彼の意見には賛成のようだった。 「おはようシシカ。昨夜はよく眠れた?」 リッツアがいつものように、こちらもつい笑みを返したくなるような笑顔で言った。シシカもそれにつられて、笑顔で応える。 「はい、義母上。レコ酒のおかげか、よく眠れました」 レコ酒というのは、帝国で造られる、子供用の、アルコール度数のかなり低いお酒だ。パーティなどの席でよく振舞われる。レコというかなり甘い果実を発酵させて造られるのだ。酒の色は、果実と同じ純白。果実と同じく酒の方もかなり甘く口当たりが良いので、女性にも人気があった。 テーブルの方には既に、ラフィオスやリザディが着いて、朝食前のお茶を飲んでいる。帝国で作られている紅茶葉の一つ、クロアータ・ティーだ。帝国には他に、五色の聖騎士の色と同色のお茶と、あとはそれに加えて緑茶も作られている。 「おはよう、シシカ。私はなんだか、まだ眠いわ」 上座の席から見ると、リザディの右隣の自分の席に座ったシシカに、ティーカップを皿の上に静かに置いたリザディが、確かに眠そうな表情で挨拶をよこした。 リザディの金髪は、彼女が生まれた時から彼女に仕えて、この白の館でも仕えている、宮殿の女官出身の彼女の乳母が、毎朝整えてくれている。今日は赤色の可愛らしい衣装にあわせた、赤い色のリボンで髪をまとめていた。 「おはよう、リザディ。おはよう、ラフィオス。そういえばリザディの部屋、ナーギやティリミーが集まって、昨夜結構遅くまでおしゃべりしてたろ。それが原因だな」 「そ。あれから女の子どうしで結構おしゃべりしたの。楽しかったわ」 その言葉に、ラフィオスとシシカは顔を見合わせる。まるで申し合わせていたように、二人同時に言った。 「…こっちはすごい迷惑だったんだけど…」 その言葉に、リザディがむっとした表情になり、二人を睨みつける。その子供達のやりとりに、リツツアは可笑しそうな表情を見せた。 ちょうどそこに、ザリアルが時間が少々遅れたのを気にして、食堂にすっとんで来たので、ありがたいことにリザディの注意がそちらにそれた。そうでなければ、シシカたち相手の口論が始まっていたかもしれない。 そして間もなく、同じように食堂に駆け込んできたナーギやティリミーで全員そろい、ディミたち女中たちが朝食をテーブルに並べ始めた。
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