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 クオンはラフィオスとはデザインの違うベージュのスーツだ。ラフィオスのに比べると、かなりくだけた印象になる。
 そして、ラディオスは新品の、魔法使いのローブを身に着けた。色はそれでも鮮やかに、ミッドナイト・ブルーだ。ラディオスもティリミーと同じように、生真面目な性質だった。
舞踏会は夕方ごろから開かれるため、その時間に間に合うように、冒険者庁に宿泊していた冒険者達は、馬車で列をなしてミニティアルカ家に向かうことになった。
 ミニティアルカ家は宮殿から北へ十分ほどの所にある。
 ただ皇族や貴族達とは別の扉から屋敷内へ通された。クロアータ帝国でも身分により出入り口が決められていて、それはここでも同じだったが、今回の場合はそれよりも、混雑を避けるためのようだった。
 ターハは、他の出席者達が集ってから十分ほど経ってから会場へ現れた。
 冒険者達は広々とした舞踏会場の(魔法で、これだけの人数が集まっても混雑間があまりないように大広間がさらに広くされていた)出入り口の側にテーブルが設けられていたため、シシカたちはそこにいた。どのテーブルに座るかきちんと決められていたため、シシカたちは左側の窓側の、<101>のテーブルにいたのである。
 テーブルの上にはまだ何も並んでなかったが、これが決まりである。料理は、陛下が到着し、ダンスの第一曲目が終わったあとに魔法で出されるのだ。
 「陛下のご到着です」
 扉の向こうから魔法で拡大された声が響き渡った。
 扉の横のホストの席にいたフイリユとレイアが、様様な事情でやや強張った表情をしながらも、<陛下>を迎えるために、さっと立ち上がった。
 フイリユの横に座っていた彼の弟のルイオも同じように立ち上がったが、その表情は屈託が無いものだった。
 シシカたちの位置から、三人は良く見えた。
 話には聞いていたが見るのは初めてだったため、シシカは思わずしげしげと、主にレイアとフイリユの二人を観察した。
 そして思わず、ミンピアには悪いと思ったが、フイリユが国王としての座に就いても、そしてレイアが国母の座に就いても、全く見劣りはしないという結論を出してしまった。
   ルイオは十三歳で、兄がその年齢での長身な方なのに比べ、弟はやや小柄な方だった。
 太りすぎてはいないが、やや愛嬌を感じさせる、ぽっちゃりした肉付きだ。
 髪は母親譲りの黒髪の巻き毛を短めに、きっちりと整えており、素直そうで、どこかいたずらっ子そうな黒い瞳をしている。そして、視力が悪いらしく、メガネをかけていた。
 父親に似て病弱なところがあるそうだが、雰囲気的には全体的に朗らかそうで、母親や兄より、かなり人格的に穏やかそうだった。
 彼は黒っぽい紺色のスーツを着ていたが、右胸の白いハンカチをお洒落に出してあるポケットには、ミニティアルカ家の紋章が縫い取られていた。それは、彼の兄のスーツにもあった。
 シシカが彼を見ていると、どうも視線を感じたらしい。
 自分と完全に視線があった、とシシカは感じ、思わずいたずらそうににやりとすると、ルイオの方も、にやりと笑い返した。だが、自分の立場を思い出したのか、さっと生真面目な表情になり、扉の方を向いていた。
 大広間には、上座にり立派な国王用のテーブルがある。
 そのテーブルの上にも料理はまだ並べられていないが、国王の隣の席には、今夜の国王の付き添い役である、ランドバンク公爵家の三女・ナハルミアがおり、やはり、慣習として、ルイオと同様起立していた。
 大体、国王の出席するパーティというのは、ヌートゥの場合、未婚の国王の場合は、その付き添い役の女性が選ばれる。
 国王が結婚すれば王妃が占めるその席に、未婚の場合は、その国で王家に次いで身分が高い家の、国王と年齢が近い、未婚の女子が選ばれるのだ。
 もしミニティアルカ家にターハと同じ年頃の娘でもいれば、彼女が選ばれるのだが、ミニティアルカ家は男の子ばかりだ。
 それゆえ、レイアのすぐ下の妹・エリラが嫁いだランドバンク公爵家の三女・ナハルミアが選ばれたのだった。
 彼女はターハの王妃候補の一人に選ばれている。
 ただ、ヌートゥの場合、外国の王女や皇女が国王や皇帝の后に選ばれることが多いから、どうなるかはわからない。
 (つまり、ナハルミアって、ミンピアにとっては、ライバル、って位置だよね。ナハルミアがターハのことをどう思ってるかは別だけど…この場合、本人の意思とは無関係だからな)
シシカはそう思いながら、興味津々に彼女を見つめた。
 彼だって、ナハルミアが近くにでもいればこんなに無作法には眺めないが、上座からは結構離れた席に着いているからこそだ。
 シシカのパーティでは、ミンピアのこともあるから、全員興味深そうにナハルミアを見つめている。
 しかしこんな遠くからの視線でも気づくことがあるから、適当なところで視線を外したりしているが。
 ナハルミアは年齢は十七歳。
 身長は普通だ。すんなりした体つきに、どこまでも白い肌をしている。
 ただモモの人間離れしたエルフ的な白さに比べれば、やはり人間的だ。
 美しいことには変わりは無い。後は好みの問題だろう。
 淡い紫色の、豊かな巻き毛は腰の辺りまで伸ばされているのだが、今日はそれを流行の型に、ふんわりと結い上げている。かなり華やかな髪飾りと、純金製で紅玉をあしらった華やかな額飾りを身につけていた。
 小さめの卵形の顔、頬骨は高く、くっきりした目鼻立ちの、美人といえる少女だ。だが、どこか浅薄そうなこげ茶色の瞳をしている。
 彼女はこうした催しの折にはこの頃は必ず付き添い役を務めているから落ち着いた立ち居振る舞いだが、公女としての躾がなかったら、どこか怪しいと言わざるを得ない感じだろう。
 「…もしターハがこのまま国王の座についてたら、王妃様はやっぱり外国の王女か皇女さまよね」
モモがひそひそ声で、左隣に座っていたクオンに話しかけた。クオンが頷いた。
「そうなるよな。いくつかの王国に、ターハと近い年齢の王女が、帝国のレムナ様も含め四人ほどいるし。しかしそうなると、あのナハルミアは慣習上、妾妃ってことになるだろうな。いくら公爵家の娘とはいえ」
それを聞き、モモとティリミーが同時に顔をしかめた。
「妾妃さまねえ。確かに、帝国にだって昔は普通にいたし、大陸の方じゃここと同様、今でもいる国々も多いわよ。でも仮にも公爵家の娘が、妾妃になるのって、プライドが許さないんじゃないかしら。私だったら絶対に嫌だわ」
ティリミーの言葉に、モモが頷いた。
「でも慣習ってのは、なかなか強いものらしいからね。個人の意思に関係なく、親の意思で婚姻関係が結ばれちゃうのよ。
 ミンピアだって身分がつりあわないから、最後の最後にはターハの妾妃になるしかないって冗談っぽく言ってたけど、やっぱり本当は正妻になりたいんだと思うわ」
モモたちは、ミンピアたちに対して同情的なようだった。
 そうこうするうちに、ダンスが始まった。
 最初のダンスは、今夜の主催者であるレイアと、今夜の主賓のターハが、役三十分のダンスを踊るのだ。
 このダンスは<ヌートゥ>の舞踏会の慣習で、<ディングラ>と呼ばれている。
 人間の名前や地名などにも<ディングラ>はあるが、意味はそれぞれ異なっている。
 
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