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 なぜリペシアの初恋の相手が使用人だ、というのがわかったのか、と言えば、リペシアはまだまだ、館内からあまり出たことがないからだった。
 暇は持て余していない。
 彼女も、三人の家庭教師に付いて、勉強やら、お稽古ごとやらで忙しいのだった。
 だから勉強の間は気が紛れる…のだが、それでも家庭教師が見ていると、以前より集中力が欠けているようだった。
2008年4月1日UP
 テイイラミ邸の女性陣が束になり、リペシアの片思い人探しが開始されてから二週間後、なんとなくだが、その正体がわかってきた。
 それを発見したのは、シェビニエだった。
 今年16歳になるこの少女は、その年齢の標準より、やや小柄の背丈だった。
 ただ、全体的にすらりと伸びやかで姿かたちが良いため、実際より高めの身長に見える。
 立ち居振る舞いも実に軽やかで無理がなく、優雅な印象を受ける。
 顔立ちは、モートウの父方の祖母に似ている。小さな子供っぽい、どちらかといえば繊細な目鼻立ちをしており、柔和な印象の顔立ちで、本人は子供っぽいことを気にしていた─そういう年頃だ─が、周囲の人々は、それを可愛いと思っていた。モートウ夫妻も娘の可愛らしさは、ひそかに自慢に思っていた。テイイラミ家の子供世代では、唯一の女の子だから、というのもあるかもしれない。
 彼女の髪は、綺麗な巻き毛のペールブルーだ。腰の辺りまで伸ばしており、普段はそれを、小奇麗に結い上げていた。瞳は涼やかさと穏やかさが同居しているかのような、紺色だ。
 「お父様、リーピの片思いの相手、多分発見した、と思うわ」
ある休日の午後、モートウの書斎を静かにノックし、気分的な問題だろうが、抜き足差し足で入って来たシェビニエは、やや真剣な表情で、父親に告げた。
 今日の彼女は、ごく淡い黄色の、こざっぱりしたドレスを身につけていた。床まで届く長さのドレスだ。袖はドレスよりやや濃いめの黄色のリボンで二つに分けられ、それぞれがほどよく膨らんでいた。
 ちなみに、リーピ、というのは、リペシアの愛称だ。
 モートウは書斎で、ほぼ日課になっている好きな読書をしようと入ったところだったが、シェビニエのこの言葉に、興味を示した。
 くるり、と、目を面白そうに回してから、シェビニエに聞いた。
「ほう。誰かな、それは」
 シェビニエも、モートウ同様、この件に関しては、真剣だが、どこか面白がるような雰囲気で話し始めた。
 「今週から図書室で働いている、シラ=ピシフって子よ。
 リーピもなかなか面食いで、目が高いわ。あんな綺麗な子、上流階級でだって、なかなかお目にかからない─いえ、全然いないわ。パイルグよりも断然可愛い顔してるもの。お人形さんみたい」
シシカの顔を思い出しながらシェビニエは楽しそうに話した。モートウから見ると、彼女にしては珍しくかなり興奮したようで、話ながら自分に同意してるのか、しきりとうんうんとうなずいている。
 ちなみにパイルグというのは、今この国の女性たちを騒がせている、侯爵家の16歳の、かなり美形な跡取り息子だ。
 それから、何故リペシアの片思いの相手がその子かとわかったのかと言えば、この頃リペシアが頻繁に図書室へ行くようになったり、シェビニエがリペシアの様子をさり気なく見ていると、やたらとその子の傍へ何気に行きたがったり、様子をちらちらと見たり、その子がちょっとこちらを見ようものなら、顔が真っ赤になるから、だという。
 シェビニエはその様子を、リペシアが可愛くて仕方がない、といった様子で話した。
 この二人は、実際、普段からかなり仲が良い。
  「お人形みたい?」
モートウはシェビニエのその言葉に、思わず、この間会ったシシカの顔を思い出し、聞き返した。
 まさかとは思うが…ありえないことではない。
 自分の屋敷の使用人を雇うのは書類の上では良く確認しているが、実際に会って面接をするのは、その任に就かせている使用人頭に任せている。
 彼が新規に雇われた使用人と直に接触するのは、一ヶ月後だ。
 モートウは、自分が王家から向けられている疑いは、先刻承知している。
 この館にその斥候が潜んでいることも、充分認識していたが、そうした連中には気取られないように、充分注意しているという自信がかなりあった。
 実際、斥候たちは、未だに決定的な証拠を掴んではいない。
 「お人形みたい、といえば」
シェビニエがモートウがつぶやいた言葉で思い出したのか、そう言った。
「そういえばお父様がお話して下さった、先の舞踏会で会った冒険者の男の子も、お人形さんみたいな顔してる、のよね」
 シェビニエも、王家が自分の家に向けている疑いのことは知っている。そして、自分の父親が、<クーラ>の長だということも知っていた。
 しかし、彼女は、王家のことも素直に敬愛しているが、<クーラ>のことも正確に把握している。何しろ、自分も構成員なのだ。
 シェビニエは、父親の、王家が放った斥候に対する姿勢も充分承知し、それを納得していた。
 その為、王家側の人間が見たら、どこか小憎らしげな様子にも見える、余裕があり、どこか楽しげな感じで、こう言ったのだ。
「その冒険者の男の子と、今うちの図書室で働いている男の子、同一人物、だったりして」
 モートウも、十中八九そうだと思っており、やれやれ、王家もしつこい、と内心苦笑していたが、シェビニエに向かっては、やはりどこか楽しげにこう言った。
「そうだな。しかし、その子があの男の子だとしても、今はリーピ問題の方が重要、だな」
 シェビニエもこれに対し、
「ほんと、そうですよね」
と、こちらはやや真剣な表情で頷いたのだった。
  2008年7月5日UP

 さて、一方、ロドルたちだ。
 ロドルとルファディウ、そしてクオンは、チャフイの都で活動する、反乱軍に身を投じていた。
 反乱軍内の情報というのも馬鹿にできない。
 <クーラ>の組合員が反乱軍を手引きしているという情報は反乱軍の中に身を投じている諜報部員が掴んでいた。
 彼らは巧く立ち回り、そこから長などのことを引き出し、また、反乱軍を壊滅させる、という任務を受けていた。─この任務についている冒険者は、実は二十名ほどいた。
 そして、モモとティリミー、ラディオスは、シシカやロドル、そしてメナたちと連絡を取り合うための、連絡係のような役を任じられた。そして、姿隠しの術が使えるため、メイグ=トンクル邸に忍び込んで調査する、という任務もあったため、結構忙しかった。─トンクル邸の方にも諜報部員が入り込んでいるが、求人を巧く出せる状況ではなかったからだ。
 というわけで、三人は、時々姿隠しの魔法を使い、ロドルやシシカたちの元を訪れたり、メイグたちの動向を調べたりしていた。
 そろそろ、モートウたちが、尻尾を出してもいい頃なのだが。
 メナたちもだが、モモやシシカたちもそう考え、なんとなくいらいらし始めていた。
 そういえば、その後ターハとミンピアは、それぞれの彼らの生活をしていた。
 ミンピアは、モモが感じた一時的な違和感はそれ以降は感じず、以前と何ら変わらなかった。
 ミンピアとシシカたちは仲が良かったが、彼女が<クーラ>に所属していないとは言い切れない。
 シシカたちがいなくなった理由を、モモは、メナやターハの許しを得て、雇われ冒険者として、タイクルドのために働いている、とだけ伝えておいた。
 ミンピアはそれを聞くと、目をまるくし、
「大変ね」
と、素直に驚いていた。
 これまた一時的に違和感を感じたターハの方は、シシカたちが彼のために仕事をしてくれている、と考えたり、自分に自信が出てきているとも考えられた。ただ、あの違和感はそのような簡単なものではない、と、モモは確信していた。
 そしてそれは、モモやシシカが舞踏会の時に感じた不可思議な違和感を、モモは時々ではあるが、ターハとミンピアの二人から感じることがあった。
 モモはこれを、シシカからも確認したかったのだが、彼は生憎、今テイイラミ邸にいるため、確認出来なかった。
 (それにしても、不思議)
と、彼女は何となくいらいらしながら、このことを考えていた。
 というのも、シシカと不定期に、時々連絡を取り合うのだが、その時にいつも、ターハのことを言うのを、忘れてしまうのだ。
 後からその事を思い出すと、誰かにその部分だけを巧く忘れさせられてるような、そんな不愉快な気分になるのだ。
    
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