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「大人になってみりゃ、自分の身分が生まれながらに高いってことに感謝することが結構あるんじゃないか?─子供の頃には窮屈に感じていた高い身分って奴を、大人になったら、自分の人生と楽しみのために、うまく利用すればいいんだよ 」 (─ロドルの奴、さっき、何言ってたんだろ…) 剣術の授業の次は、ラディオスの担当する授業の一つ、「魔法概論」だった。 自分の部屋に戻り、急いで─(魔法が使えればなあ)と、シシカは思わず愚痴った。魔法には瞬間移動の呪文があるのだが、それを使えば移動がものすごく楽になる。ただ、それは中等部五年生になるまで、待たなければならない─制服の一部になっている黒のローブを身につけながら、シシカは、ロドルが先ほど言ったことを思い出していた。 思い出していた、というよりは、その言葉が勝手に頭の中に浮かんできたのだが。 (ロドル以外の人に聞いてみてもいいんだけど。たとえばラディあたりとか。ラディや義父上だったら真面目に答えてくれそうな気もするけど、ただ答えを聞くだけ、ってのもなんだか癪だし…) そこで、シシカの目がふっと壁にかけられた柱時計の文字盤に行く。─授業が始まるまでに、あと三分しかなかった。思ったより長いこと、ロドルの言葉を考えていたらしい。 シシカは大いに慌てた。普段の日ならいざ知らず、授業初日に遅刻はしたくない。 (─ああ、もうロドルの奴!気になる事を言ってくれるんだから。…遅刻したら、ロドルのせいだからね!) ばたばたとかばんを持ち上げると、シシカは大急ぎで部屋から出て行った。 だったら言葉の意味を考えなければいいだろう、と人が聞いたら思うだろうが、如何せん、シシカは魔法使いである。 魔法使いというのは、第六感が普通の人々より、はるかに優れている人が多い。他の人にはただ鏡が割れただけだろうと、そこからある人が大怪我をするとか言い当てることが出来たりする。シシカの場合は、その人がたとえ何の気なしに言った言葉でも、ことあるごとに自然に思い出して気になる言葉となるものがある。─あとからその言葉を思い出すと、それがこれから自分に起こることの大切なキーワードだったり、あるいはその言葉を発した人物のキーワードだったりする、という能力が、物心ついた時からあった。 昔はただ気になるくらいだったが、今は自分の中の魔法の気が小さい頃に比べて大きくなってきたせいなのか、そういう言葉を言われた時は、その言葉自体が─説明が難しいが─何か、黄金色に輝いているような感じに、<見える>のだ。 ロドルが先ほど言った言葉がいい例で、ロドルの口から発せられたその言葉が、その時のシシカには黄金色に輝いて見えた。 時々、そういうようなことが煩わしいと思うこともあるが、ティリアンカやラディオスなどの先輩魔法使いあたりにいわせれば、それは魔法使いとしての証拠みたいなものだから、魔法使いとして生まれれば、これは仕方のないことらしい。彼らに言わせると、こうした生まれながらの煩わしい魔力を制御するために、日々魔法の呪文を習ったり等、魔法に関することを訓練しなければならないらしいが。 「だから、私たち魔法使いは、自分たちの魔法力を制御することを、訓練しなけりゃならないのよ」 ティリアンカはそう言って笑っていた。 「訓練することによって、自分が生まれながらに持っている力を制御する方法を覚えるの。そうしないと、いつまでたっても自分の力を制御できなくて、そのような煩わしい現象が続いたりするのよ。でもうまく制御出来るようになれば、自分の大いなる魔力となるの。魔力をうまく制御できれば、他の人よりははるかに長生きすることも可能になるのよ」 ちなみにティリアンカは小さいときから人の死ぬ日時がわかってしまう能力として魔法力を発揮していたため、小さいときはそのことをあまり人に言わないしていたという。─魔法使いによって、制御されていない時の魔法の能力はさまざまな形で現れるらしい。ラディオスは手を触れないで物を浮かすことが出来たし(ただし自分の意思でどうこうできるものではないため、時としてかなり愉快な大騒動を巻き起こした)、ミアナに至っては癇癪を起こしたときに、水晶の割れるような巨大な音を出していたため、何も知らない新しい女中などが、その音にひどく驚いていた。 魔法概論の授業─というより、これからシシカたちのクラスがラディオスから授業を受ける教室は、白の館三階─例の<教育空間>と呼ばれている階─の、一番南端にあった。 剣術の授業のクラスは六人だったが、今度のクラスは自分を入れて四人だけになる。 その四人というのは、皇女でシシカの親衛隊隊長の一人であるリザディ・ラ・スタヴァチェ、 それから後はアオス・クオティグァと、リュール・ポアサという名前の二人の男の子だった。リザディとはともかく、この二人とは、今回初めて一緒に授業を受ける。始業式パーティの際、リザディと一緒にこの二人を探し出そうとしたものの、今ひとつどの子かわからなかったのだ。
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